Journal 事業を続けるお金の話

人を増やす前に整えること。採用は、仕事の流れを外に出す作業でもある

採用の前に、仕事の流れを整理してみる

「人を増やせば少しは楽になるはず」と思って採用したのに、むしろ教えることや確認することが増えた。小規模事業でよくある、この感覚の正体を整理します。

人が増えたのに、社長の仕事は減っていない

採用すると、現場の作業は一部任せられるようになります。ただ、その代わりに仕事を教える、手順を説明する、ミスを確認する、シフトを組む、給与や労務を管理するという仕事が新しく生まれます。作業は減っても、管理と確認が増える。これが「採用したのに楽にならない」感覚の正体です。

特に、社長の頭の中だけで仕事が回っていた事業では、人を増やした瞬間に説明の負担が一気に出てきます。今まで感覚でやっていたことを、他の人にも伝わる形にしなければならない。人を増やすことは、社長の代わりを増やすことではなく、社長の中にあった仕事の流れを外に出していくことでもあります。

役割があいまいだと、判断がすべて戻ってくる

採用したのに楽にならない理由のひとつは、役割があいまいなことです。何を任せるのか、どこまで任せるのか、どの判断は社長がするのかが決まっていないと、結局すべての確認が社長に戻ってきます。「これはどうしますか」「この場合はどう対応しますか」——質問が多いこと自体は悪いことではありませんが、毎回すべての判断が戻る状態では、社長の負担は減りません。

人を増やす前後で大切なのは、誰に何を任せるかを決めることです。作業を渡すというより、判断の範囲を決める。ここが整理されると、人が増えた意味が出てきます。

教育の時間は、最初に必ずかかる

採用直後は、一時的に負担が増えます。教える時間、作業を見守る時間、ミスを直す時間——この期間を見込んでいないと「人を増やしたのになぜこんなに大変なのか」と感じやすくなります。忙しさが限界になってから採用すると、教える余裕がない。本当は少し余力があるうちに採用し、仕事を渡していく方が理想ですが、小さな事業ではそれが難しいことも多い。だからこそ採用するなら、最初に何を教えるか、どこまで任せるかを絞ることが大切です。

人件費は、粗利から払うもの

人を増やすと、給与・社会保険料・雇用保険・交通費と、毎月の固定費が増えます。ここで見ておきたいのは売上ではなく粗利です。売上が増えていても材料費や外注費が多ければ手元に残るお金は少なくなり、その中から人件費を払う必要があります。今の粗利で人件費を払えるか、人を増やすことで提供数はどれくらい増えるか、社長の空いた時間を何に使えるか——ざっくりでも見ておくと、採用後の不安は減ります。

「人が足りない」の中身を、一度分けてみる

「人が足りない」と感じるとき、実は中身はいくつかに分かれます。単純に作業量が多いのか、特定の時間帯だけ忙しいのか、社長しか判断できないことが多いのか、システムや道具で減らせる作業が残っているのか。この中身を見ないまま人を増やすと、原因と違うところに手を打ってしまうことがあります。

本当は、採用より先に予約枠の見直しやメニューの絞り込み、レジや予約システムの導入が効くかもしれない。人を増やす前に、どこが詰まっているのかを一度分けてみる。それだけで、採用すべき人材や任せる仕事が変わります。

人を増やして現場の一部を任せられるようになっても、社長の時間の使い方が変わらなければ事業全体はあまり楽になりません。空いた時間を何に使うか——売上を作る、メニューを見直す、資金繰りを見る——ここが決まっていないと、採用しても忙しさの質が変わらないままです。

宿り木として

採用の相談を受けるとき、最初に確認したいのは「今どこが詰まっているか」です。忙しさの原因が仕事の流れにあるのか、判断が集中しているのか、それとも単純に手が足りないのか——原因によって、整えるべきことが変わります。

人を採用することは、社長が一人で抱えていた仕事の流れを、誰かと分ける選択です。そのためには、先に仕事の流れが見える状態になっている必要があります。数字は、採用を止めるためのものではありません。雇った後に事業が続けやすくなるかを、一緒に確認するためのものです。

「採用したいけれど人件費を払っていけるか不安」「忙しいのに利益が残らない理由を知りたい」という方は、お問い合わせからご相談ください。粗利と仕事の流れを一緒に整理するところから始められます。

代表 増渕俊介の写真 宿り木税理士事務所
代表 増渕 俊介
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